MENU

REPORT

特別講演会開催レポート

  • 特別講演会開催レポート

改めて考えよう。
「予防歯科」とは何か?

予防歯科の理念と口腔の健康を支える歯科医院づくり

ダン・エリクソン先生
スウェーデン王立マルメ大学歯学部
カリオロジー講座 上級教授

ダン・エリクソン先生

このたびスウェーデン王立マルメ大学歯学部 カリオロジー講座 上級教授のダン・エリクソン先生を迎え、講演会を開催しました。当日は約300名の参加者が来場し、会場は高い関心と熱気に満ちた雰囲気に。ここでは当日取り上げられた話題の中から、特に注目すべきトピックをお届けします。

リスク評価の目的と効果的なフィードバック

リスク評価は患者さんの過去から現在を読み解き、未来を見通す非常に優れた手法です。唾液の分泌量や緩衝能、細菌の量といったデータを参考にしながら、患者さんの背景・状態に応じて柔軟に予防プログラムを組み立てていきます。
こうした重要なリスクモデルは生物学的な事実に基づいています。口腔内外で何が起こっているのか、その相互作用を見て将来を予測することができるのです。
リスク評価には、大きく2つの目的があります。

① 患者さんの将来のリスクを予測して予防するため
② 患者さんに「今なぜこうなっているか」を説明するため

「問題を見つけること」が目的にならないよう、ぜひ留意してください。重要なのは得た結果を患者さんとどう共有し、次の行動へいかにしてつなげていくかということなのです。
「一人ひとり異なるリスク」をもとにしたフィードバックは、患者さんとディスカッションを始めるよいきっかけになります。ただ、いきなり説明から入るとどうしてもコミュニケーションが一方通行になって、貴重な機会を逃してしまうことになりかねません。

「今からご説明してもいいですか?」
こうした問いかけから始めると患者さんに対話の主導権を持たせることができ、より主体的な関わりを引き出せます。
効果的なフィードバックを行なうには、次の3点を意識するとよいでしょう。

・なぜ現在の状態になっているのか
・このまま何もしなければ、今後どうなってしまうのか
・悪化を防ぐために何をすべきか

たとえばカリエスがない20歳の方が来院した場合、その状態をキープするためにはどうしたらよいか。検査結果をもとにその方と話して一緒に決めていきます。またむし歯も歯周病もない72歳の患者さんであれば、だ液検査は不要だと判断しても差し支えありません。今のケアを続けていくことが、その人にとって最善のアプローチになるからです。肩を叩いて「よく頑張っていますね」と声をかけ、取り組みをたたえてあげてください。

患者さんとのコミュニケーション

私たちは患者さんとの間に、コーチと選手のような対等でフラットな関係を築いています。このとき歯科医療従事者には、“患者さんをリスペクトする”という姿勢が欠かせません。
スウェーデンでは歯科医師・歯科衛生士ともに歯学部1年次から患者さんと接するカリキュラムが組み込まれていて、早い段階から問いかけ、伴走し、行動変容を促すコミュニケーションが実践できるようになっているのが特長です。

多くの患者さんは、歯を守るために「何をすればいいか」は知っています。たとえば「むし歯にならないためには、どうすればいいと思いますか?」と聞くと、「甘いものを控える」「歯を磨く」といった答えが返ってくることがほとんどです。ところが、「なぜそれが必要か」という理由までは理解していません。

もちろん、私たちは理由を教えることはできます。しかし、一方的に伝えるだけでは自発的に予防に取り組む姿勢はなかなか生まれません。だからこそ、リスク評価が必要なのです。患者さんが自分の経験を振り返りながら考えたり感覚的にやるべきことを理解したりして、行動に移せるよう、私たちは、日々MI(Motivational Interviewing)を活用して行動に導いています。

スウェーデンの長期に渡る予防戦略

1900年代初頭、スウェーデンでカリエスに悩む人は相当数いました。1937年における12歳児のDMFTは、8本に達していたほど。そこで1938年、子どもを対象とした無料の歯科治療が始まります。1974年になると、歯科保健制度(予防的ケアにかかる成人の費用を自己負担25%に)が導入されました。

さらに2011年、人々の歯を健康に守る予防についての国家ガイドラインを策定。2021年に改訂された最新のガイドラインでは、「疾患にならない予防」から「健康な人がより自分らしくウェルネスを向上できる」ことを目的としたヘルスプロモーションの概念も追加され、国を挙げて口腔から健康を育む取り組みが続けられています。

ヘルスプロモーションは、健康な人をより健康にしていくことが目標です。生活習慣・社会環境・教育・自尊心といった側面にも働きかけていく考え方となっています。そのためには、やはり患者さんの主体性が欠かせません。スウェーデンでは一人ひとりが自律し、自分の健康に対して自ら責任を持つことが当たり前になる社会を目指しています。